アリババ・サルージャという人間を一言で表すのならば、そう、

……「性格が悪い」













「白龍」

ひょいと扉から顔を覗かせたアリババは、そのまま部屋の主に断るでもなく室内へと足を踏み入れた。

「何かご用ですかアリババ殿」
「ん?んーいや、逃げてきただけ」
「…またですか」
「そんな顔すんなよ」

これでも悪いと思ってるんだぜ?と、全く悪びれずに口にする男に白龍の苛立ちが募る…が、今更かと直ぐにそれもおさまった。

「今度はなんですか」
「えーあー…ジャーファルさんが午後から街に下りようかって」
「行ったら良いじゃないですか」
「やだよ。ただでさえ師匠との修行で疲れてるのに」

今日も今日とて滅茶苦茶にしごかれたと肩を回すアリババ。既にいつもの定位置と化した寝台に身体を落ち着けている。白龍にあてがわれた部屋だというのに、何故アリババの定位置なんてものが出来ているのか。全く以て謎である。白龍は軽く息を吐きつつ、諦めた様相でその隣へと腰を落ち着けた。

「ですが誘われたのであれば、行かないと怪しまれるのでは?」

バレますよ、その性格。

「何?心配してくれてんの白龍」

優しいなお前とニマニマ笑うアリババに一瞬で白龍の眉間に皺が寄った。

「…いっそバレてさっさとシンドリアから追い出されれば良いんじゃないですかね」
「怒るなよ」
「怒っていません、呆れているだけです」

アリババが常時纏っている厚い仮面に誰も彼もが騙されている。かく言う白龍もずっと騙されていた。…だが何を思ったのか、ザガン攻略後に突然明かされたアリババの人間性。「俺実はこんなんだから」と笑う彼はあまりに静かに落ち着いていて、白龍は混乱のさなかとりあえずそういう事でよろしくとアリババに手を握られた。…それからだ。それからずっとことあるごとにアリババは白龍のもとを訪れるようになった。いっそ逃げてくると言った方が良いか。言い方はなんであれ、どうやらアリババが素をさらけ出せる相手は白龍だけらしく、張った力を抜くための場として選ばれたのだ。そうして王宮内ではどこに人の目があるか分からないため、必ず二人きりになれるようにとアリババが白龍の部屋を挙げた…これが始まりである。しかしこの現状を改めて振り返ってみると、アリババ本人が申告しない限り、誰一人としてアリババが仮面を扱う人間であると気付かないということで…全く末恐ろしいことこの上ない。





ある時白龍はアリババに問うた。何故ただの一人、自分には真実を告げたのかと。するとアリババは驚いたように目を見開いた後、ゆるりと表情を緩めて次のように零したのだ。

『お前…泣いただろ』

ザガン攻略の時に、泣いただろ。
それは白龍にとって決して思い出したい内容では無かった。あれはただの八つ当たりであり失態だ。…が、問うた手前途中で話を止める訳にもいかず、ただ黙って続きを促した。

『あの時に、さ…ちょっと羨ましくて』
『羨ましい、ですか?』
『ああ。…あそこまで素直に大泣き出来るお前が羨ましかったんだ』

だから、そんなお前だからついっていうか…な。まあ気紛れみたいなもんだと思っててくれよ。
穏やかに綴られた言の葉にひゅっと喉が引き攣った。白龍はその時初めてアリババ・サルージャという人間の素顔を見た気がしたのだ。






「何考えてんだ?」
「ぇ、?っ」

いつの間にか沈んでいた思考を引き上げると、すぐ目の前に不思議そうなアリババの顔があった。

「…近いですアリババ殿」

離れて下さいと告げると、途端にアリババの口角が上がった。あ、まずいと白龍の脳内で警鐘が鳴る。

「なあ、白龍」
「嫌です」
「ちゅーしよ」
「だから嫌ですって。早く戻って下さい」

でないともしかしたらジャーファル殿が探しに来られるかも。
僅かな焦りを見せる白龍に対し、アリババは依然として笑みを崩さない。

「じゃあ白龍がちゅーしてくれたら戻る」
「じゃあって何ですか…子どもですかあんたは」

げんなりとアリババを見やる白龍はしかし、良くも悪くもアリババの性格を充分過ぎる程に把握していた。いつまでもちゅーしろと五月蝿いアリババに軽く舌打ちをしてから、相手の胸ぐらを掴み引き寄せた。

「っ、ン」
「…しましたよ。ですから約束通り、ッ」

続く筈であった白龍の言葉は不自然に途切れることとなる。一瞬で変わった視界を睨み上げる白龍は、再びその唇を開いた。

「どういうつもりですか」

ドサリと寝台に倒された白龍…そしてそんな白龍に馬乗りになるアリババ。厳しい目を向けてくる相手に対し、アリババはにいっと唇を吊り上げた。

「なんか煽られた。だからシようぜ白龍」
「ッ、あなたは!」
「だいじょーぶ。実際誘われたのはアラジンとモルジアナだから」

そりゃあ俺も誘われるだろうけど、見つからなきゃ平気。

「…あんた、本当にいい性格してますね」
「どーも。嬉しいだろ?お前にだけだ」
(なあ?白龍)



やけに艶っぽく笑みを形作った唇に悪態を吐きつつも、落ちてくるそれを白龍が拒むことはなかった。





















最悪なあなたに恋をした
そんな自分こそが最悪だ



***





花簪ちゃん、この度はリクエストをありがとうございました!ひねくれたアリババくんでの龍アリということでしたが…何だか右斜め上なお話になってしまったような気がします。ごめんなさい!

リクエストに沿えていない感満載ではありますが、宜しければ受け取ってやって下さい。勿論苦情は四六時中受け付けておりますので!


それではリクエストをありがとうございました!相互感謝です!!


(針山うみこ)